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ep41 王女、上陸!

Author: 根上真気
last update Last Updated: 2025-05-11 08:41:51
【王女留学~宿命の章】

【1】

リザレリスを乗せた船は無事、〔ウィーンクルム〕の港に到着した。波は実に穏やかで、空は青く晴れ渡っている。まるでブラッドヘルム王女を歓迎し、待ちわびていたようだ。

「お待ちしておりました。リザレリス王女様。フェリックス・ヴォーン・ラザーフォードでございます」

船を降りるなり、高貴な外観をした金髪の美男子が自らリザレリスを出迎えてきた。

警護の者以外に彼が引き連れてきた出迎えの人員は思いのほか少なく、厳かな空気もまったくない。王族同士というより、親しい貴族同士が対面する雰囲気だった。フェリックス王子の意向でそうなったと思われるが、さっそくリザレリスは油断する。

「おっ、久しぶりー」

ルイーズによる教育効果はどこに消え失せてしまったのかと思うほど、リザレリスは気軽に応じる。その途端、エミルとルイーズがハッとして駆け寄る。

「王女殿下。初めまして、ですよ」

エミルが思い出させるようにヒソヒソ声で囁いた。

「あっ」

完全に失念していたリザレリスは、ヤバイと思っている暇もなかった。続けざまにルイーズが鋭い眼で訴えかけてくる。相手は第一王子ですよ、くれぐれもちゃんとしなさいと。

「わ、わかったよ」

緩慢しきっていた気を引き締め直して、リザレリスは訓練で習得した王女の顔を作った。

「お出迎えありがとうございます。フェリックス王子さま。わたしはブラッドヘルム王女、リザレリス・メアリー・ブラッドヘルムです」

スカートを軽くつまんで、片足を内側斜め後ろに引き、膝を折って挨拶する。ルイーズによる教育の甲斐あって、リザレリスのカーテシーも様になっていた。

「そんな堅苦しい挨拶は結構ですよ」

フェリックス王子は穏やかに頬を緩めた。

「えっ?」とリザレリスは一驚する。

「私...いえ、僕と貴女に立場の差もありませんし、そのような挨拶は必要ありませんよ。普通に十代の学生同士でいきましょう」

フェリックスは、実に寛大で友好的な姿勢を見せた。

「マジで?いいの?」

途端に姿勢を崩したリザレリスは目を輝かせる。

「もちろん。だからこそ今回の留学にあたっては、国王陛下とも協議した上で、形式・儀式的なものは排除させていただきました。ディリアス様も、そのほうがリザレリス王女殿下にとって良いだろうとおっしゃいました。どうでしょう。リザレリス王女も気楽で良いのではない
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